Beyond 5Gが支える未来社会を万博でワクワク体験――総務省「Beyond 5G ready ショーケース」 

2025.07.03
Beyond 5Gが支える未来社会を万博でワクワク体験――総務省「Beyond 5G ready ショーケース」 

「当初目標の2倍ほどの来場者があり、予想以上の反響にびっくりしています。連日の満員御礼でしたが、何よりも、来場者の方々が、喜んで笑顔で楽しんでいただき、また真剣に学んでいただけたことに非常に嬉しく感じています」。こう語るのは総務省総合通信基盤局の影井敬義氏。電波部 移動通信課 新世代移動通信システム推進室の室長として、EXPO 2025大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)の「Beyond 5G ready ショーケース」の陣頭指揮に当ってきた。

総務省総合通信基盤局の影井敬義氏

総務省総合通信基盤局の影井敬義氏

このショーケースは万博会場内のEXPOメッセ「WASSE」で開催されたもので、5月26日から6月3日の9日間の限定イベントだった。その間の来場者数は4万人を超え、未来の通信に対する来場者の興味関心の高さを示した。会場を3つのZONEに分けて、わかりやすく楽しめるコンテンツを用意した。ZONE1からZONE3に進むに従って、5Gの次の世代の無線通信技術であるBeyond 5G(6G)が実現した未来の街・暮らしを疑似体験しながら、未来の情報通信をより深く理解できるストーリーを作り上げた。

ZONE1は、180度の壁面ディスプレイを使った大迫力のプロローグシアターで、通信の歴史から未来への歩みを紹介した。1837年の電信の発明から、1890年の日本における電話の提供、その後のインターネット、携帯電話、4Gや5Gを経て、Beyond 5Gの世界へ向かうことをビジュアルに親しみやすく表現していた。そして、AIの活用、オール光ネットワーク、空飛ぶ携帯基地局としての活用が期待される「HAPS」(High Altitude Platform Station)まで、没入感のある大画面で紹介。通信や技術に詳しい人も惹きつける導入シアターになっていた。

Beyond 5G ready ショーケースのZONE1に設けられた「プロローグシアター」。180度スクリーンで通信の歴史をダイナミックに表現した

Beyond 5G ready ショーケースのZONE1に設けられた「プロローグシアター」。180度スクリーンで通信の歴史をダイナミックに表現した

体験しながら未来の社会と通信のあり方を学ぶ

ZONE2に進むと、Beyond 5Gによって実現される社会や生活のイメージを実感する5つの体験型のコンテンツのブースを用意。ブースは壁面の奥に配置され、中央のスペースからは壁面に投影した未来都市のイメージが楽しめる。5つのブースを駆け足に紹介していこう。

まず、「リモートムーンオペレーション」。これは<未来のしごと>を実感するコンテンツで、月面と地球をBeyond 5Gの超低遅延通信で結び、デジタルツインとAI予測によりリアルタイムで月面の機器制御が可能な世界を体験する。来場者はVRゴーグルを使って、月面操作の没入型体験を楽しんでいた。

「リモートムーンオペレーション」

「リモートムーンオペレーション」

「HAPSリカバリー」は、空飛ぶ携帯基地局「HAPS」(High Altitude Platform Station)を活用した<未来のあんしん>を提示。災害時に通信ができなくなったエリアをHAPSで上空からエリア化する様子をシミュレーションした。具体的には、6人の体験者がタブレット画面上でHAPSのプロペラを回す作業を行い、災害現場に無事にHAPSが飛んでいく様子を体感していた。

「HAPSリカバリー」

「HAPSリカバリー」

<未来のしぜん>を体感できるのが、「オーシャンクリーニング」のブース。海中ロボットを操作して、海中のゴミを回収する未来の体験を提供していた。Beyond 5Gでは水中光無線通信技術や NTN(Non Terrestrial Network)などにより、海洋や海中の通信が可能になる。体験者の動きをカメラとAIが検知して海中ロボットを操作するゲーム的な要素の高いコンテンツで、未来の海中活用をイメージさせた。

「オーシャンクリーニング」

「オーシャンクリーニング」

「バーチャルピッチングルーム」では、<未来のからだ>の体験を提供。Beyond 5Gの高速・低遅延の性能を生かし触覚を伝送するハプティクス技術による感覚の伝送を体験できた。遠隔地やAIアバターと仮想空間上でキャッチボールするエンターテインメント性の高いコンテンツとして構成し、「感覚」が伝わるリアルな未来の通信を楽しんでいた。

「バーチャルピッチングルーム」

「バーチャルピッチングルーム」

最後が「クロスコネクトシティ」で、<未来のくらし>をイメージさせるブースだった。様々な産業システムを適切に組み合わせることで、街の課題を解決する学習型体験コンテンツに仕立てた。ネットワークやシステムが提供する各種の機能を調整するオーケストレータの必要性を学び、未来のくらしのインフラ整備の重要性を体感していた。

「クロスコネクトシティ」

「クロスコネクトシティ」

アバター体験から技術展示までを楽しめる仕掛け

子どもも大人も楽しめるコンテンツを用意した各ブースに加えて、「Beyond 5G ID」を活用したアバター体験も提供した。来場者に配布されたIDバンドをかざしてブースでコンテンツを体験すると、IDパーツを集められ、サイバー空間上のもう1つの自分である自分だけのアバターができる。

アバター体験から技術展示までを楽しめる仕掛け

「アバターはZONE2の中央に配置されたステーションにバンドをかざすことで確認できるほか、20分ごとに壁面のスクリーンにアバターが登場する演出もあり、サイバー空間とリアル空間の協調を感じられるコンテンツに仕立てました。さらに、バンドのQRコードを使うと、総務省サイトで10月まで開催しているBeyond 5G ショーケースの『バーチャル催事』でも自分で作ったアバターに出会えます。子どもから大人まで、デジタルツインの世界を身近に感じられるような演出を心がけました」と影井氏が語るように、リアルからバーチャルまで含めた体験がきめ細やかに作り込まれていた。

2030年代のAI社会を支える情報インフラとしての「Beyond 5G」―ZONE3

ZONE3では、ここまで体験してきた未来都市のイメージを実現するBeyond 5G 開発技術の展示があった。これは総務省や情報通信研究機構(NICT)のBeyond 5G基金事業などで現在開発中の10の技術について紹介するもの。技術展示というと、専門家やマニアにとっては興味深いものの、一般の万博来場者には少し縁遠いことが想像される。そうした中で、「ZONE1、ZONE2までのストーリーがあった上で、実現する技術を紹介したコンセプトが来場者の方々に受け入れられ、大人から子どもまで楽しんでもらえました」(影井氏)というように、技術にも興味を持ってもらえるコンテンツ作りの成果が表れた。実際、ジオラマや動画、AR(拡張現実)などを活用した展示も多く、最先端の難しい技術でありながら楽しみながら理解を深める場になっていた。

「安定した通信を支える宇宙天気予報技術」の技術展示では、2029年打ち上げ予定の静止観測衛星ひまわり10号に搭載する各種センサーを公開

「安定した通信を支える宇宙天気予報技術」の技術展示では、2029年打ち上げ予定の静止観測衛星ひまわり10号に搭載する各種センサーを公開

ZONE3の入口には、ZONE2の未来体験にどの技術が活用されているかを図示したパネルもあった。例えば、光通信基盤をオールジャパンでオープン化していく「オール光ネットワークで未来のインフラを支える」はZONE2のバーチャルピッチングルームとクロスコネクトシティに、ジオラマとARで陸海空のネットワークの通信のあり方を示した「宇宙・海・空・地上をつなぐ3次元宇宙通信ネットワーク」はZONE2のHAPSリカバリーやオーシャンクリーニングに関連が深い技術であることが一目でわかる。こうした細やかな工夫も、未来のイメージと技術の関係性を自然に感じさせることにつながっていた。

ジオラマとARを組み合わせて通信を「見える化」した、「宇宙・空・海・地上をつなぐ3次元宇宙通信ネットワーク」の技術展示

ジオラマとARを組み合わせて通信を「見える化」した、「宇宙・空・海・地上をつなぐ3次元宇宙通信ネットワーク」の技術展示

太陽フレアを予測する「安定した通信を支える宇宙天気予報技術」のデモ。太陽フレアはオーロラをもたらすだけでなく、通信に影響を及ぼすため24時間の監視体制が敷かれていることを説明していた

太陽フレアを予測する「安定した通信を支える宇宙天気予報技術」のデモ。太陽フレアはオーロラをもたらすだけでなく、通信に影響を及ぼすため24時間の監視体制が敷かれていることを説明していた

2026年の商用化を目指す「空飛ぶ基地局HAPSでつながる超高域通信」の技術展示。軽量の飛行機型HAPSで離島や海上、山間部の通信を支えるほか、災害時の通信確保にも役立てる

2026年の商用化を目指す「空飛ぶ基地局HAPSでつながる超高域通信」の技術展示。軽量の飛行機型HAPSで離島や海上、山間部の通信を支えるほか、災害時の通信確保にも役立てる

未来の社会を作り上げる

無事に閉幕した「Beyond 5G ready ショーケース」について、影井氏は、「期間限定ではもったいない、もっとやってほしい、といったご意見をいただきました。これは最大の褒め言葉だと思います。万博という大きな舞台を使った展示は、政策を世の中に届けるアプローチの1つの実験でもあります。総務省の行政官として率直に勉強になりましたし、ショーケースとしての価値があったと感じています」と総括する。

総務省総合通信基盤局の影井敬義氏

今回のショーケースは、総務省としても前例のない規模と見せ方を具体化していったものだという。影井氏は、「あくまで総務省として伝えたいことがあって、今回の万博でこのようなイベントを主催しています。6Gや次世代通信について政策を立てていくのが自身の本業だからです。一方で、総務省だけで作ったのでは堅苦しいイベントになってしまいます。そこで民間のクリエイティブな方々の力を借りて、コンテンツ制作での創意工夫やエンターテインメントとしての側面も、かなり議論を重ねながら、磨きをかけてきました。その上で、次世代通信を伝えるコンテンツは、ナレーションの一言一句まで私自身も監修して、内容も精査していきました」とそのあり方を語る。その成果が、想定の2倍という来場数や、来場者のポジティブな感想につながっていった。

万博の展示は成功裏に終わった一方で、この成功を本当の意味でBeyond 5Gの推進力にすることが求められる。「Beyond 5Gを多くの人に知ってもらって、理解してもらいながら、世の中が変わっていくための取り組みや推進力として具体的な政策に落とし込むことが必要です。1970年の大阪万博で”夢の電話”といわれて展示されていたワイヤレステレホンなどは、その後当たり前となり、現在はそれを超える情報通信社会になっています。今回の大阪・関西万博でお見せした、月面との通信や陸海空をまたいだNTN(非地上系ネットワーク:Non Terrestrial Network(s))などの次世代通信を実現し、これまでのものの見方を変えた社会の実現に貢献していきたいと思います」(影井氏)。

Beyond 5G ready ショーケース

「バーチャル催事」トップページ

大阪・関西万博の会場での「Beyond 5G ready ショーケース」は終了したが、前述したバーチャル催事 https://b5g-readyshowcase.soumu.go.jp は会期末の10月13日まで開催している。会場催事と共通のコンテンツを、Web上からバーチャル空間で簡易的に体験できる試みだ。「会場催事にロスを感じてくださっている人は、ぜひバーチャル催事も体験してください。IDバンドのQRコードを使えば、会場で作った自分だけのアバターでバーチャル催事を楽しめます。会場に来られなかった方も、並ばずにバーチャルでコンテンツを体験してもらえます」と影井氏。大阪・関西万博の会期中は、総務省が描く未来社会のショーケースを楽しみ尽くせる企画がありがたい。

影井氏は、「70年の大阪万博でワクワクした人が、今の通信業界を牽引してくださってきています。今回のショーケースやバーチャル催事でワクワクしてくださった方々が、次世代通信を牽引や底上げして、未来の社会を作り上げていってくれたら、嬉しいことです」と、通信を通じた次世代の社会を支える人材の育成まで含めた未来への貢献に期待している。

(TeleGraphic 編集部)

JA